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ウォッチメン小説

  • meta564448ms
  • 2016年7月4日
  • 読了時間: 8分

映画ウォッチメンを観てすっかりロールシャッハに心奪われ、彼をどうにか幸せに、納得する終わらせ方にする為に慣れないながら小説を書きました。

稚拙な文ですがよろしければ…

 全てはとりあえず収束を迎えた。しかしこれが納得出来る終わりかと問われれば、ダニエル・ドライバーグは素直に頷けない。確かにこの南極で、危惧していた終末を回避することはできた。世界は協力と平和を手に入れたのだ。しかし失ったものが多すぎた。

 世界中の都市の無関係な人々、マンハッタンという強大な仲間。そして、ロールシャッハ…、---ウォルター・コバックス。大切な友人。

 彼の最後は、あまりにあっけなかった。そして恐ろしく彼らしくもあった。自らの正義を曲げ、妥協することを心底憎んだ彼のとった選択は、かつての仲間に殺されることだったのだ。この、聡明な頭脳から算出され、人智を超えた力と沢山の犠牲の上で燦然と輝く、メッキを塗った平和の世界で口を噤んで生きる。それよりその平和の価値を理解した上で、受け入れることをせず愚直な死を選んだ。

 そして雪の上に真っ赤なシンメトリーを描いた。あれはまさに彼そのものだった。

 ダニエルから見たロールシャッハの最後は、まるで殺されることを望んでいたように見えた。彼には解っていたのだ、例え歪んだ平和だとしても、それは尊いのだと。自分の正義を貫き、真実を公表すれば何万人もの命が無駄になるということを。彼には罪なき人の犠牲を無に帰すだけの理由がなく、かと言ってその人々を見殺しにしてその世界で生きられるほど器用ではなかった。

 その為、立ち塞がったマンハッタンに対し、ロールシャッハというヒーローの面を脱ぎ捨て、ウォルター・コバックスというただ真っ直ぐ、不器用な、愚直な男として対立したのだ。ヒーローとして自分の信ずる正義の為に真実を伝え多くの犠牲を無にすることをあきらめ、不器用にこの世界から退場することを選んだ。彼なりにこの平和を守る為に。ダニエルの目にはそう映った。

 エイドリアンの視線を感じながら基地を後にしたダニエルとローリーは、アーチーに乗り込むべく歩を進めた。闘いは予想だにしない結果に終わった。この闘いには純全な悪も完全な正義も存在しなかったのだ。

 様々な感情に揺られながら、一歩雪原に踏み出せば、目に飛び込んでくるのは友人だった赤。ローリーは正視に堪えないとばかりに顔を背けた。しかしダニエルはかつての友人をしかと見据える。

 「…ロールシャッハを、このままにはしておけない。」

 半ば独白のようにダニエルは零した。

 「…そうね。でもどうするの?かき集めてアメリカまで運ぶのは無茶よ。」

 「遺体はこの地に埋めて、墓標を立てよう。エイドリアンの側で彼は気に食わないだろうけど。そして墓は彼が生きた街に建てるんだ。」

 ダニエルは真っ直ぐウォルターを見つめながら言った。その語感には一つの揺るぎも感じられなかった。

 赤と白の鮮やかなコントラストに目眩がする。そこに描かれたロールシャッハ・テストに、ダニエルは何を見出したのか。

 彼の骸を葬る前に、風にはためき今にも飛んでいきそうなソフトハットに目を留めた。今となっては彼の唯一の遺品である。彼が常に身につけていた、年季が入り薄汚れ、あの街の匂いのするハット。それを優しく手に取る。

 「……。」

 無言で見つめるダニエルの瞳はどこか遠くを映しているようだった。

 暫くそうした後、丁重にコートの中にハットをしまい込み、気を取り直すかのように声を上げた。

 「さぁ、ロールシャッハが文句を言わないような場所に埋めてあげよう。」

 ローリーは静かに頷き、彼の残骸を拾い集めるのだった。

 郊外の広く寂れた霊園にひっそりと建てられた一人のヒーローの墓。冷たく重い墓石にはロールシャッハの文字だけが彫られている。その下には何も埋まってはいない。ここにあるのはただ彼が存在していたことをささやかに主張している標だけだ。

 この墓を建てる手続きや費用はダニエルが負うつもりでいた。しかし南極から帰還して間もなく、自宅にスーツ姿の男がやってきたのだ。その者は名乗りもせず手紙を差し出してきた。

 そこには直筆で、短いメッセージが綴られていた。

 使ってほしい。

 ロールシャッハは憤るだろうが、どうか私の自己満足に付き合ってくれ。

 スーツの人物はヴェイト社の遣いで、宛名もないこの手紙はエイドリアンからだとすぐにわかった。そして目的も書かれていないこの手紙が、ロールシャッハの墓を建てる為に出資させてほしいと願っていることも。読み終えたダニエルにスーツの人物は、先ほどと同じだが厚みが全く違う封筒を差し出した。

 ダニエルがそれを無言で受け取ると、その男は静かに去っていった。

 見るからに大金が入ってることがわかるこの封筒を、突き返すこともできた。手紙に書かれていた通り、ロールシャッハならば決してエイドリアンを許さず、例えかつての仲間といえど同情も慈悲も恩情も受け取らなかったろう。

 しかしダニエルには、この名乗ることさえしない潔い簡素な手紙から伝わる、エイドリアンの感情と立場を無下にはできなかった。エイドリアンが決して同情や詫びでこれを置いていったわけではないとわかるからだ。彼は、ロールシャッハが死んだのは自分の責任だと思っているのだろう。しかしあの天才はロールシャッハのひととなりを理解している。そしてこの事件に関して許されようと都合よく考えてはいないのだ。だからこの様な匿名で、取り繕わない手紙を送ったのだろう。エイドリアンの心中はさぞ複雑に多くのしがらみと罪悪感に縛られていて、それでも彼なりにロールシャッハや残った僕たちを思った結果だと、ダニエルにはわかったのだ。

 こうして、ロールシャッハの墓標は建てられた。

 かの事件から数日後。彼の葬儀の日はこの街に似つかわしくないほど晴れ渡っていた。

 何も埋まっていない墓石の前で形だけ整えた葬儀が行われ、今はもう僕しか残ってはいない。先ほどまで一緒にいたローリーも、僕を気遣ってか姿が見えない。

 ロールシャッハの訃報を新聞に載せようと思ったのは、彼がこの世に存在していた証を残そうと思い立ったからだ。大切なものを残さず、救おうとしたこのニューヨークから遠すぎる地で命を落とした彼は、あまりにも世との繋がりが希薄だった。目立つことを嫌う彼からしたら苦情の一つでも入れられるなと思いつつも、新聞の小さな訃報欄に彼の名前、ウォルター・コバックスと記載した。ロールシャッハとして生きた彼だから、ロールシャッハの名で記そうかとも迷ったが、マスクを脱ぎ捨てた最期の姿を思い出し、実名にした。後日新聞を確かめてみると、ヒーローネームでもない彼の名は、毎日多くが死ぬこの街の新聞記事に簡単に紛れてしまった。

 墓標の前で僕は静かに語りかける。

 「目立つのが嫌いな君には悪かったと思ってるよ…それに実名を載せたのもね。すまない。

 でもこの街には、君に感謝している人が沢山いたんだ。」

 そう、小さな三面記事に反して、彼の式には予想外に多くの人が花を手向けた。

 僕の顔は自然とほころび、更に饒舌に彼に語りかける。

 「君が言っていた少女…、あの子の遺族が泣きながら感謝を述べていたよ。闇に葬られた事件だとばかり思っていたけど、君の行いを評価してる人だっているんだ。」

 このことが、ウォルター・コバックスを救い蘇らせればいい。

 「それにブロンドで眼鏡の美人な女性が来たときは驚いたよ!君も隅に置けないな。いい人がいたなら僕に言ってくれればいいのに!」

 ロールシャッハとしてだけじゃない君を見ていた人だっていた。

 ニューヨークが吹き飛ばなければ更に多くの人間が、彼の死に涙し、感謝をしたかもしれない。

 「…君の真っ直ぐな生き方を好きな人は沢山いるんだ、ロールシャッハ。」

 僕は静かに墓石を見つめた。

 僕はコートの懐からソフトハットを取り出した。南極で拾い上げた時のままの、彼の唯一の遺品だ。

 本当は棺の中にハットを入れて埋葬すべきだったのだろう。しかしできなかった。

 結局僕の元に残ったロールシャッハという人は、壊れた家の錠と、食い散らかした豆缶と、このハットしかない。それを手放すには、あまりにもロールシャッハは僕の中の深いところにいた。

 彼は恐ろしく孤独だった。その孤独から、友人として救えていたかと聞かれれば…多分NOだろう。彼を理解するには、あまりに彼のことを知らなすぎたのだ。

 僕はウォルターとしての彼を知らない。彼の生活を知らない。生い立ちを知らない。

 ウォルター・コバックスの苦悩を知らないまま、彼は赤色鮮やかなロールシャッハになってしまった。

 そのことを今更悔いても、もう僕の手にはよれたソフトハットしか残っていない。

 「…今更何をと思うだろうな…。でも僕は、もっと君を知りたかった、ウォルター・コバックス…。

 僕は、君を……、…素晴らしい友人だと思っているよ。」

 涙が一粒僕の頬を伝った。 

 「おやすみ、ウォルター…」

 目をつむり、母が我が子の額に落とすかのように、僕はハットにキスした。

 目をあけたら、ハットをコートにしまい込み、ローリーの元へと足を向ける。

 そのまま振り返ることなく霊園を後にした。

 ニューヨーク郊外の閑散とした霊園に、一人のヒーローがいたことを標す墓標が静かに残された。

 
 
 

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